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最高裁判所第三小法廷 平成5年(行ツ)53号 判決 1998年4月28日

上告人

中央労働委員会

右代表者会長

山口俊夫

右補助参加人

小川邦夫

右訴訟代理人弁護士

石野隆春

山口英資

塙悟

被上告人

東京焼結金属株式会社

右代表者代表取締役

池上順作

右訴訟代理人弁護士

渡辺修

吉沢貞男

山西克彦

冨田武夫

伊藤昌毅

峰隆之

右当事者間の東京高等裁判所平成三年(行コ)第六四号不当労働行為救済命令取消請求事件について、同裁判所が平成四年一二月二二日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人北川俊夫、同福田平、同中島芙美子、同恵藤宜昭、同中村悟雄の上告理由及び上告補助参加代理人石野隆春、同永瀬精一、同山口英資の上告理由について

本件配転命令及び本件再配転命令がいずれも不当労働行為に当たらないとした原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、是認することができないではなく、原判決に所論の違法はない。右判断は所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づき若しくは原審の認定に沿わない事実に基づき原判決の法令違反をいうものであって、いずれも採用することができない。

よって、裁判官元原利文の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官元原利文の反対意見は、次のとおりである。

私は、多数意見と異なり、本件配転命令及び本件再配転命令がいずれも不当労働行為に当たらないとした原審の認定判断を是認することができない。その理由は、以下のとおりである。

一  原審の認定するところによれば、上告補助参加人(以下「小川」という。)は、昭和四九年一月から昭和五六年の本件配転まで七年余にわたり、被上告人の推進する合理化政策に終始反対の姿勢をとってこれを批判し続け、昭和五三年の役員選挙において組合内の労使協調路線を採るグループが組合三役を占めた後も、小川らの属する旧執行部派は、昭和五四年、五五年の役員選挙において、なお四〇パーセント前後の得票率を確保し、小川自身も、昭和五四年の役員選挙には旧執行部派から推されて執行委員に当選し、組合内及び勤務先である川越工場の従業員の中で依然相当な影響力を保持していたというのである。そうすると、被上告人が、営業担当者一名の増員を要する浜松出張所への補充者として、五名の候補者の中から小川を最適任者として選抜した経過があるにしても、その提案するプレス部門の完全二交替制勤務制度導入の是非を争点とする組合役員選挙の告示約一箇月前に、毎年の例によれば立候補が確実とみられ、事実既に組合員宅への訪問活動を開始していた小川を、組合運動を事実上断念せざるを得ない右出張所へ配転することは、旧執行部派の本拠地から小川を隔離し、その活動を封じ込めようとの被上告人の意向を如実に表明したものと認めるのが相当である。

また、原審の認定事実によっても、被上告人における過去の配転事例をみると、(一) 工業高校を卒業した製造部門の非役付きの妻帯技術者が、遠隔地の営業所に非役付きの営業担当者として単身赴任した先例のないこと、(二) 工場の技術職から営業所の営業職等への異職種間配転は、主として役付きから又は役付きとしての配転あるいは通勤可能地間の配転が多いことなどが認められるところ、これらの事実は、過去の配転事例と比較しても、本件配転が異例であったことを示すものであって、本件配転が小川に対する不利益取扱であったことを更に裏付けるものと評価することができる。

さらに、配転命令が不当労働行為に当たるか否かを判断するに当たっては、人選の合理性は、使用者の不当労働行為意思の強弱との比較においてこれを評価判断すべきところ、本件の場合、被上告人の不当労働行為意思の存在が顕著であったと認めるべきことは前述のとおりであるから、本件配転命令が不当労働行為でないというために必要とされる人選の合理性の程度については、非代替性の存在までは要しないとしても、小川本人でなければならない理由が相当程度あることが必要と考えるべきである。ところが、本件配転は、期間を二年に限定した上、その後任には、配転時小川と共に候補に挙がっていた者が充てられたというのであるから、配転時に小川でなければならなかった必然性は、さして大きなものではなかったということができる。

結局、本件配転は、小川の組合活動を嫌悪し、同人を旧執行部派の活動拠点から隔離して活動を困難ならしめるために行なわれた不利益取扱と認めるのが相当である。

二  また、昭和五八年八月二五日付けの本件再配転は、浜松出張所への小川の後任者が川越工場から転出したにもかかわらず、小川を旧執行部派の本拠地である川越工場へ復帰させなかったのみか、右転出者の後任も補充しないまま東京営業所への異動を命じたのであるから、被上告人が、引き続き小川を隔離し活動を封じ込める意思を示したものとみるべきであり、同じく不利益取扱と認めるのが相当である。

三  以上の次第であるから、上告人の本件命令を取り消した原判決及び第一審判決には、いずれも労働組合法七条の解釈適用を誤った違法があるので、原判決を破棄して第一審判決を取り消し、被上告人の請求を棄却するべきである。

(裁判長裁判官 尾崎行信 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)

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